【教養講座】コイサン諸語の音声学：言語音の限界を探る

「ブッシュマン・ホッテントットの言語」として知られてきたコイサン諸語（カラハリ盆地言語帯）には、世界でもっとも複雑な仕組みで発音される音類が存在します。この講義では、そうした音を入り口に、コイサン諸語の音声的・音韻的な特色について、最新の研究成果をふまえて学んでいきます。人間の言語音の幅と限界を、コイサン諸語の音を通して考えます。 対象は、IPAの肺気流子音や母音チャートについて基本的な理解がある方です。音声学の知識をもう一段階深めたい人にぴったりの講義です。講義では、解説だけでなく、いろいろなタイプの高度に複雑な音を実際に発音してみるトレーニングも行います。希望者には模倣発音をしてもらい、発音の正確さをチェックしたうえで、よりうまく出せるようアドバイスもします。 取り上げる話題としては、コイサン諸語に見られる独特な気流機構（クリック音や放出音、クリックと放出が組み合わさった複合音）、頻繁に使われるクリック子音や、とくに複雑な構造をもつクリック子音のしくみ、MRIや音響分析による観察結果、そして語根の中で子音や母音がどう分布しているかといった点を扱います。 コイサン諸語の音に実際にふれることで、言語音の限界についての重要な側面を、理論的に理解するだけでなく身体的にも実感できる講義です。3回の講習のうち1度は、母語話者をゲストとして迎え、実際の発音を実演してもらう予定です（何回目になるかは未定です）。