西洋中世のテクスト・写本から見る聖地
西洋中世のテクスト・写本から見る聖地
プレミアム講座は東京都立大学教員の専門的かつユニークな研究の内容を紹介する講座です。興味のある方々に受講していただけるよう特別価格で提供しており、入会金も不要(一般の方)です。高校生は無料で受講できます。尚、当講座に関しては事前のキャンセルの場合でも受講料は返却いたしませんのでご了承願います。
西洋中世と聞いて、「聖地奪回」のために戦う十字軍を思い浮かべる人は多いでしょう。しかし、十字軍運動と呼ばれる軍事遠征は、数多くの聖地への信仰のひとつの代表例にしか過ぎません。本講座は、年代記やロマンス(主に騎士の活躍を描く物語詩)や巡礼記のような様々なテクストや写本の細密装飾画(ミニアチュール)等のモノを読み解くことを通じて、西洋中世の多様な聖地についての言説とイェルサレムへの崇敬を考えていきます。
西洋中世において、聖地、特にイェルサレムは、イエス・キリストが受難によって遺したキリスト教徒の正当な「遺産」であり奪回されるべき場所として十字軍遠征の目的地となっただけでなく、福音書ナラティヴの舞台として巡礼者を集めました。その一方で、実際に巡礼に赴くことのできない信徒は、読書と瞑想を通じてキリストの足跡を想像の中でたどる仮想巡礼を行いました。また、1187年のハッティーンの戦いでイェルサレム王国と聖十字、さらに1291年に最後のシリア地域の城塞都市アッコンが失われると、その喪失は軍事的失敗だけでなく信徒が罪のためにキリストの「遺産」に相応しくなくなったたためと考えられ、典礼や贖罪の励行が行われました。つまり、「聖地奪回」は前線の戦士の軍事力だけでなくキリスト教圏の信徒全体が参加する霊性・道徳性の向上によって達成されると信じられたのです。日々の信仰実践を通じて、聖地崇敬は後期中世にはキリスト教徒のアイデンティティの一部となっていたと言えるでしょう。本講座を通じて、西洋中世の一般信徒の日々の生活に根ざしていた聖地への信仰の豊かで多様な営みを紹介したいと願っています。
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